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塩川達大

第7回・「部活動改革ガイドライン2025」まとまる

2026年を迎えましたが、12月末、文部科学省は有識者会議の議論を経て、「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン(令和7年12月)」 を策定しました。令和8年度から13年度までを「部活動改革実行期間」とし、公立中学校等を主として対象に、期間内に原則全ての学校部活動の地域展開を目標に掲げております。詳細は文部科学省のホームページをご覧願いますが、ここでは子どもの学びという視点からガイドラインに関する私見をお伝えします。部活動改革は全国各地の子どもに関することですので、さまざまなご意見があろうかと思いますが、こうした考えもあるというぐらいでお読みいただけると嬉しいです。

1 目的はあくまでも、子どものスポーツ文化を学ぶ環境のサステナビリティ

現在の基調では2100年には6300万人に半減するという予測もあるほど、厳しい人口減少時代が到来している我が国において、人口ボーナス時代の部活動は時代遅れ、システムの限界です。教師の多忙改善に資することも当然大事ですが、大目的は子どもがスポーツ・文化に親しむ環境を人口減少の中でも持続すること、そのためのシステム作りこそが目指す姿です。民間有識者による人口戦略会議の最終アピールでも、地域社会は子育てを社会全体で支える「共同養育社会」の実現に取り組むべきとしております。同じように、学校任せにしていた部活動から、広義の子育てに参画したい大人が参画し、社会全体で支える、新しいシステムによる子どものスポーツ文化活動の基盤づくりがガイドラインの目的です。最初に、改革の理念として、将来にわたり生徒のスポーツ・芸術活動に親しむ機会の確保・充実を掲げていることからも明らかだと思います。

2 部活動の原点を大事に

今回のガイドラインでは、「地域クラブ活動においては、学校部活動が担ってきた教育的意義を継承・発展させつつ、地域全体で支えることによる新たな価値を創出することが重要」とし、学校部活動が担ってきた教育的意義の例や地域クラブ活動において実現が期待される新たな価値を以下のように例示しております。

<学校部活動が担ってきた教育的意義の例>
  • ① スポーツ ・文化芸術 ・科学等の楽しさや喜びを味わい、生涯にわたって豊かな活動を継続する資質や能力を育てる。
  • ②体力の向上や健康の増進、感性・創造性・表現力の育成につながる。
  • ③自主性、協調性、責任感、連帯感などを育成する。
  • ④自己の力の確認、努力による達成感、充実感をもたらす。
  • ⑤互いに競い、励まし、協力する中で友情を深めるとともに、学級や学年を離れて仲間や指導者と密接に触れ合うことにより、学級内とは異なる人間関係の形成につながる。
<地域クラブ活動において実現が期待される新たな価値の例>
  • ①生徒のニーズに応じた多種多様な体験(複数の競技種目等に取り組むマルチスポーツや総合文化芸術、スポーツと文化芸術の融合、レクリエーション的な活動等を含む。)
  • ②生徒の個性・得意分野等の尊重
  • ③学校等の垣根を越えた仲間とのつながり創出
  • ④地域のさまざまな人や幅広い世代との豊かな交
  • ⑤適切な資質・能力を備えた指導者による良質な指導
  • ⑥学校段階にとらわれない継続的な活動(引退のない継続的な活動)及び地域クラブ活動の指導者による一貫的な指導 等

以上も踏まえつつ、大人の皆さんにご理解いただきたいのは、生徒が自ら参加・つくりあげるものが、部活動の教育上の大きな意義であるということです。現実の部活動ではスキルの向上、さらには大会での成績を目的とした活動も多く、必ずしも子どもの自発性に結び付いていないものもあります。今回の部活動改革・地域展開を機に、部活動の原点を大事に進めていくことは、子どもの主体的・対話的で深い学びの観点からも極めて意義があると思います。地域展開に関わる大人の皆さんには、子どもの主体性の創出を大事にした学びのサポートの支援という視点で関与して頂けるとありがたいと思います。

3 大人の責務

ちなみに高校野球でのイニング変更は、大人ではなく球児が決めるべきといったように、部活動の在り方については、大人ではなく子どもの考えを尊重するべきという見解があります。

私も子どもの意見を尊重するのが何より大事と考えております。校則の見直し、これなどは生徒を信じて生徒の主体的な検討に基づいて決めることが一番良いと思います。他方、未成年の子どもにとって、将来大人になった時から逆算して最適な意思決定を行うことが困難な事項があるのも当然と思っております。そここそが保護者、大人の責務に関わるところと考えます。

高校野球の話に戻れば、今この瞬間にオーバーバーストしてもよいという考えを持つ高校球児が将来、過去を振り返り、あの時の選択は間違っていたと思う場合があり得るでしょう。大事なのは、最適な意思決定に向けた情報を子どもに提供したうえで、子どもの考えを尊重する、そのうえでも限界があるところについては親をはじめとする大人が、子どもの視点を今と将来、双方から俯瞰して、子どもの代理人という立場で(決して親や大人の考えの押し付けではなく)決定する、そのバランスだと思います。

ここでユニークな部活動を紹介します。愛媛県大洲市にある愛媛県立長浜高校の「水族館部」です。モデルにした小説等が生まれたぐらいですので、ご存じの方もいらっしゃると思いますし、興味ある方は調べていただければすぐアクセスできると思いますので詳細は割愛しますが(参考:「長高水族館」は本日も大盛況)、この水族館部、はじまりは、自然科学部の生徒と顧問の先生が水槽でいろいろな生物を飼育し、その延長で市民に公開をしていく中で「水族館」に至っております。水槽の公開のみならず、企業との共同研究でクラゲ対策クリーム「ジェリーズガード」の販売に至ったり、カフェの運営を行ったり、多岐にわたる活動が行われております。

顧問の先生の助言も受けながら、生徒がやりたいことを自ら考え、学び、取り組む中で活動が縦横に拡大、商店街との連携も進められ、地域経済への波及効果も大きいとのことです。長浜高校水族館部は、スポーツや文化の一般に想像する部活動とは違いますが、部活動の原点に基づく学びの場だと思います。そしてこれも先生方と生徒、さらには地域の方、それぞれの活動のバランスがよいことが基盤にあると思います。

繰り返しますが、大人と子どもの活動のバランスが最適になるためには、大人も絶えず学び変化していかないといけません。大人が部活動というものを狭義にとらえていたら長浜高校水族館部も生まれなかったかもしれません。大人が従来の価値観にとらわれることなく、考え、意思決定し、新たな行動をとる、もちろん子どもへの説明責任も果たす。そのことが子どもの主体的な学びの場の充実につながっている、そういう好事例ととらえてもよいのではないでしょうか。

4.最後に

今の学校教育では、我々大人が子どもだった当時以上に、主体的な学びが求められております。世界が変わってきているのですから当たり前ですが、そのことについて大人はもっと子どもの視点に立って考える必要があると感じます。同様に、部活動改革についても我々大人が経験した過去を模倣するのではなく、子どもにとって最適な環境は何かという未来志向の視点で、大人こそが責任をもって変えていく。それが今の部活動改革に求められていることだと思います。
大げさに言えば、未来を生きる子どものために、今の日本の大人全般が責任をもって言動すること、それが求められていると感じます。子どもの視点に立ちながら、大人一人ひとり、組織それぞれが悩みつつも自らの役割を果たしていく、必要に応じてファーストペンギンになる。それが積分されるならば日本の未来は明るいのではないかなと思うのです。子どもは自分の成長のためにファーストペンギンになっているわけですから、大人がそのことを恐れてはいけない、とまた自戒しております。

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塩川達大(しおかわ たつひろ)
塩川達大

京都大学経済学部卒業、ロンドン大学ユニバーシティカレッジロンドン修士(公共政策)

1996年文部省(当時)入省、文部科学省、岐阜県教育委員会、内閣官房(地方創生担当)等の勤務を経て、2017年スポーツ庁学校体育室長(部活動改革担当)、2019年初等中等教育局参事官(高等学校担当)、2021年高等教育局専門教育課長、2023年7月国立大学法人金沢大学理事・副学長

2024年8月より文化庁 文化資源活用課長